千葉妖怪伝説「その三 黒入道」

海に囲まれた千葉県は昔も今も漁業が盛んな地域である。海は多くの富を千葉に住む人々に授けてきた。まさに恵みの海である。しかし、海は富を授けるものだけではない。優しいその顔の裏には人の命を奪う恐ろしいもうひとつの顔があるのだ。特に漁師たちは、板一枚の下は地獄と言われたように大変危険な仕事であった。近代整備の整った今でも遭難する可能性がある海である。当時の人力による船で海を渡る人々の気持ちはいかほどであっただろうか。

 当然、海に纏わる妖怪は沢山いる。その最も有名なものは「海坊主」ではないだろうか。巨大な坊主頭の姿で突如海面に姿を現し、漁船を転覆させたり、漁師を脅かしてみたりする妖怪であり、広く全国で怖れられている海の代表的な妖怪である。お盆或いは、月末とか出る日が決まっていると言う地方もあり、その日は漁師はみな仕事を休んだと言われている。その正体は海で死んだ者の霊魂だとか、魚が集まったものだとか言われているが判然としない。しかし、現代でも「ニューネッシー」や、「カバゴン」、「シーサーペント」など海のUMAと看板を書き換えて妖怪「海坊主」の子孫ともいえる怪物たちは健在である。

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 また「船幽霊」も有名な海の魔物である。これは文字通り海で亡くなった人の怨霊であり、生者を死者の仲間に引き入れるべく、「柄杓を貸せ」を船上の人にねだる。しかし、ここで柄杓を与えてはいけない。貸したその柄杓はたちまち数百の柄杓となり、船に海水をいれて沈めてしまうのだ。お墓の死者に柄杓で水をやる我々生者に、柄杓の水をかける事で死者にしたてるのであろうか。なんとも不気味な妖怪であるが、いまも水死者の怨霊は、生者を黄泉の国に誘う事例はあるのだ。心霊談などで水泳中に足が何者かにつかまれたので、水中にもぐって見てみると溺死体が足をがっちりつかんでいたとか、昔の服装をした亡霊がしがみついてきたとか、その手の話は枚挙にいとまがない。海は魔物の巣窟なのだ。

 他にも顔が坊主で体が亀の「海和尚」とか、座頭姿で海上にぬーっと出て驚かす「海座頭」とか、突如海上で船の行く手を阻む「海ふさぎ」や船の進行をはばむ「シキ幽霊」など海に住む妖怪は大変多い。これは海で仕事をする人々、海を移動する人々にいかに多くの妖怪・妖怪現象という奇妙なものが目撃されてきたかを裏付けている。海という無限にすら感じる単調さに、或いは暴君とも言える荒々しさに人の心は「妖怪」というスケープゴートを設定したのだ。

 この「黒入道」は千葉の沿岸に伝えられる妖怪である。一説には海で死亡した人間の魂が自宅に帰ってくるものと言われており、深夜に妖しいものが戸を「とんとん」と叩くものであるという。その姿は黒づくめで人相すらはっきりしないが人の形をしているという。海で死んだその家の主人が懐かしくて帰ってくるのだが、決して戸を開けてはいけないと言われている。

 いくら懐かしくとも死者と生者の境目は分けなければいけないのだろうか。この決め事はイザナギの頃からの慣習である、黄泉の国の住民はこの世に帰ってきてはいけないのだ。

「黒入道」のノックは現世へのノックなのかもしれない。

ご注意:
この記事は、地域情報サイト「まいぷれ」で掲載されていた「千葉妖怪伝説」というコンテンツを転載したものです。記載されている内容は、当時のものですので、現在の情報とは異なる可能性があります。ご了承ください。

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