千葉妖怪伝説「その六 怪談『返してください』」

魔物が話しかけてくる事がある。

 それは人の名前を呼ぶ場合であったり、或いは意味不明の言葉であったりするのだ。また魔物は一言しか言えないという説もある。反復言葉や長文は苦手らしいのだ。

 かの柳田国男は著作を参考にすると、「もしもし」と呼びかける事は人間である証明であるともいえるらしい。つまり、魔物であれば「もしもし」という反復言葉は言えず、「もし」という一言になってしまうのだそうだ。だからかつて野外に光のなかった昔の日本では「黄昏時」「かわたれどき」に道ですれ違う人に対し、「もしもし」と呼びかけて、正体確認の合い言葉にしたのだ。

 この事から、明治になり電話が開通したときに、相手の正体確認の言葉である「もしもし」と話しかける習慣が定着したのである。一見単なるコードで結ばれた電話に魔物の声が混入しているかもしれない。相手の姿が見えないのに声だけ聞こえる。明治の人々は魔物のささやきを聞き分ける為に「もしもし」を使用したのである。

 21世紀の現代でも、魔物は人間に話しかけている。こんな話がある。四国のTという友人から聞いた話なのだが、四国の某病院が幽霊屋敷であるという噂が立っていたそうである。もの好きな人が仲間と一緒に探検に行ったが何も起こらず、そのまま帰る事になった。しかし手ぶらで帰るのもしゃくなので病院内に散乱していたカルテを持ち帰ってしまった。すると深夜に電話がかかってきた。その人が電話に出ると相手はこう言うのだそうだ。

「…カルテ返してください…」。

 どうだろうか、かなり気味の悪い一言である。この怪談のパターンは全国に有り、中国地方では、主人公がメスを持ち帰り、「メス返してください」という電話がくるというバージョンであった。全国で魔物たちは人間を一言に殺し文句でびびらせているようである。 当然、千葉でも魔物のささやきは聞こえてくるようである。

 こんな話がある。袖ヶ浦姉崎線の横側にある急斜面の林がある。しょっちゅう大雨になると土砂崩れが起こる危険な場所である。今から20年近く前に台風によって起こった土砂崩れで女性のバラバラ遺体が発見された。しかし、全身のパーツがくまなく発見されたが、何故かどうしても左の手首だけがみつからなかった。警察の捜査の結果、被害者は女性で恋愛のもつれでの事件ではないかという事であった。

forest

 そして遺体発見から数ヶ月後の雨がしとしと降る深夜、ある会社員が会社帰りにこの辺りを走行していると、くだんの斜面から肌色円筒形のものがコロコロと転がって落ちてくる。危ないと思って急ブレーキが踏んだが、結局間に合わなかった。

「グシャッ」

という妙な音と共に止まった。会社員が一体何を踏んだのだろうかと思っていると、突如、びしょぬれ女性が現れ、車の窓を「どんどん」と叩く。そして、会社員が「なんですか」と窓を開けると、女はびしょぬれの右手で会社員の襟首をつかみこう言うそうだ。

「私の左手を返して」


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下記の記事は、地域情報サイト「まいぷれ」で掲載されていた「千葉妖怪伝説」というコンテンツを転載したものです。記載されている内容は、当時のものですので、現在の情報とは異なる可能性があります。ご了承ください。

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