千葉妖怪伝説「その十三 海の母性?うみんば」
大概の人はやまんばという妖怪を知っている。山に住む老女の魔物で、怪力で不思議な術を使用する存在である。ある意味、日本的魔女という表現が的確かもしれない。このやまんばに対して千葉県には「うみんば」という妖怪(怨霊?)がいる。
銚子教育委員会の編纂した史料「銚子の民話」には「うみんば・おさつ」という珍しい民話の記述が確認できる。
今から200年程前、おさつという女性がいた。当時外川の浜は、治郎右衛門という男が治めていたが、おさつは当初は男として船に乗り込み仕事をしていた。つまり、おさつは自分は男と言い張っていたのである。何故なら、おさつは身長が2m以上もあり、怪力でとても女性には思えなかったからである。
その後、女性であるとばれて、船をおろされた。だが浜の仕事でもおさつはよく働いた。人の何倍も働き、景気の悪い外川の浜を随分、活気づけてくれたという。この働きを評価した治郎右衛門は、おさつを後妻として厚くもてなしたとされる。
しかし、次第に漁の仕事もなくなり、おさつも酒に溺れ自堕落な生活を送るようになっていった。始末に困った村人はおさつを殺害し、海に流してしまった。
それ以来、村では奇妙な事件が相次いだ。また漁も一層、とれなくなった。これはおさつの霊が祟っているのだと評判となり、おさつの霊を「うみんば」として奉るようになったと伝えられている。
これが、珍しい「やまんば」に対する「うみんば」の記録である。対象的な両者であるが、実は共通点もある。両者とも豊穣の神であるという背景である。つまり、やまんばの豊かな乳房、そして女性が子供を産むという力が、穀物の豊穣とつながり、「やまんば」は、農業の神という性格も帯びているのだ。
これは「うみんば」にも言える事である。「うみんば」の怨念により、魚の漁獲量が減っている。つまり、「うみんば」は海の豊穣の象徴であり、「うみんば」や「やまんば」を奉る事は、豊穣への切なる願望であるのだ。
「妖怪と美女の神話学 名著刊行会 吉田敦彦」に興味深い記述がある。
「やはり、山姥に神話のイザナミやコノハナノサクヤビメらとまさに共通するような、偉大な母神としての性質があるとの現れであろう 中略 だからこそ山姥は、焼き殺されればその死体が黄金や作物の発生の母体となり、また万病に効く薬として不思議な治癒力を発揮するとも、また富を無尽蔵に生じさせる宝を、人に授けることができるともされているのであろう」
かつて女性は太陽であったとは平塚雷鳥の残した名文句であるが、古代の日本においては卑弥呼の鬼道、アマテラス信仰などに見られるように日本は女性を崇拝してきた。それは出産という生産行為が、豊かな実りの豊穣を連想させたからである。
日本史において一時期、女性は不遇な境遇を味わい、怨霊になるしか自分の主張を通す事ができなかった。だが、昨今女性は復権し、社会進出が目立つようになってきた。この現代において、共同体によって殺され、怨霊や妖怪となるのは「おやじ」「男」なのかもしれない。
ご注意:
上記の記事は、地域情報サイト「まいぷれ」で掲載されていた「千葉妖怪伝説」というコンテンツを転載したものです。記載されている内容は、当時のものですので、現在の情報とは異なる可能性があります。ご了承ください。
まいぷれ編集部
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