千葉妖怪伝説「その十五 軍隊に纏わる怪談「軍隊怪談」」
戦争が終わって随分と時間が流れてしまった。かつて日本にあった”軍隊”というものに対する人々の記憶も薄れてきている。かつて、限りなく「死」に密着した軍隊という集団には”怪談”がツキモノであった。
千葉県にも軍隊の基地や駐留地が多く存在し、各ヶ所で怪談が語られていた。古参兵による新兵いじめの一環であったともいえよう。
さてよく話されるのが、過去に津田沼にあった鉄道連隊の駐留地にある”井戸に纏わる怪談”である。現在は某施設となっているのだが、かつて鉄道連隊が駐留していた頃は、新兵が門番に立つのが習わしだった。
ある夜、疲れから門番にあたっていた新兵が居眠りをしてしまった。それを咎めた上官は新兵をしかりつけると、新兵の持ってた銃の錫杖を井戸に捨ててしまった。
そして、一言
「天皇陛下からもらった銃なのだから、井戸に飛び込んでとって来い」
とすごんでみせたのだ。
泳ぎが出来ない新兵は泣きながら井戸に飛び込み命を落としてしまった。
それ以来、毎夜毎夜井戸から、
「錫杖かえせ~、錫杖かえせ~」
という亡霊の悲しげな声が聞こえたと言われている。
気味の悪い怪談であり、軍隊版「皿屋敷」とでも言えるが、この怪談は各地の軍隊の拠点で語られている。捨てられるものが、錫杖ではなく、銃そのものだったり、違う部分であったり、パターンはいろいろあるが、概ね同じ内容であり、軍隊に流布した軍隊怪談とでも言えるかもしれない。
他にはこんな軍隊怪談がある。
「行徳昔語り 行徳昔話の会 2000年11月」によると、軍隊での奇妙な怪談が語られている。第二次世界大戦中、現在京成大久保駅付近に軍隊の駐留する基地があった。毎日厳しい訓練で大勢の兵隊が鍛えられていたのだが、その部隊にHという人物が所属していた。元来兵隊にむかないおとなしい気質の男だったらしく、基地から3.4回脱走しては捕まり、強制的に連れ戻されていた。
そんな過酷な軍隊生活の中で、楽しみといえは食事時ぐらいで、特に戦時下での卵はご馳走であったという。Hもご多分に漏れず、卵が出る日を心待ちにしていたらしい。しかし、その後Hは軍隊での過労により死亡してしまった。Hの遺体を家族が引き取りに来るまで、同僚が遺体安置室で見張りに立つ事になった。
しかし、何故だか見張りに立つ者がことごとく高熱を発してしまう。ひょっとすると、死亡したHの祟りではないかと部隊の中でも評判になってしまった。
遺体が実家に引き取られた後も、Hの幽霊は出没し、仲間を震撼させたと言われている。特に卵の出る食事時にHの幽霊が出たという。
馬に乗ったHが
「た ま ご ー」
と絶叫しながら、走る抜けていくのだ。死後も卵の誘惑はHを惑わしたようだ。卵への執着が彼の成仏を妨げているのだろうか。
昨年筆者は、ある事情でその現場に行った事がある。現在では住宅地となり、多くの住民が住み、新生活をおくっている。現代でもHの幽霊は、この場所で彷徨っているのであろうか。
何百世帯と立ち並ぶこの地域で、考え事をしていた私は、ある事に気づいてしまった。この何百世帯の食卓に、毎食一体どのくらいの卵が並ぶのであろうか。もしHの幽霊が健在ならさぞ混乱するであろう。
この飽食の時代、卵1個で化けて出た”軍隊の幽霊”の哀愁など分からなくなってきている。卵1個で人が化けて出る時代があったのだ。
日本人は生きながらにして妖怪になってしまったのか、これは、いささか問題だ。
ご注意:
上記の記事は、地域情報サイト「まいぷれ」で掲載されていた「千葉妖怪伝説」というコンテンツを転載したものです。記載されている内容は、当時のものですので、現在の情報とは異なる可能性があります。ご了承ください。
まいぷれ編集部
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