千葉妖怪伝説「その十六 ねねこ河童は本当に、河童界一の親分なのか?」
かつてプロレス界では、最強と言われるレスラーが随分と存在した。新日本プロレスファンは猪木、或いは坂口を推奨し、全日本プロレスファンは馬場、鶴田を絶賛した。米国ではテーズ、ゴッチから、デック・ハットン、ビル・ミラーなどが最強と噂され、金網デスマッチだと”やはりラッシャー木村が最強だろう”と、無茶な理論を主張する者もでる始末(笑)多くのファンが贔屓のレスラーを”最強”と信じ、日々口々に論争していた時代があった。
なおこの”一番強い”とか、”一番の親分”とかいうファジーな称号は妖怪界にも存在する。これは様々な本で主張される事だが、四国の化け狸の親分は”行部狸”と言われている。何をソースにした”四国化け狸の親分説”なのだろうか。
ちなみに行部狸は愛媛の化け狸であり、隣県の香川や、徳島に行くとちょいとばかし事情が異なってくるのだ。香川県では地元の”禿げ狸が四国一の親分狸”とされており、うちの母方の祖母などは大の”禿げ狸サポーター”であった。また私や、知人のタキタ氏(こなき爺の発掘で知られる)は、共に徳島出身であり、やはり地元の化け狸”金長”か、”六衛門”を押したい気持ちが強い。
要するに、地元贔屓の感情が入り、高校野球やサッカーのホームのように自分の住むエリア(或いは出身県)の妖怪を”最強””一番の親分妖怪”と信じたいという人間の心理が大きく関与しているようだ。千葉とは若干エリアがずれるかもしれないが、利根川には日本河童界随一の親分”ねねこ河童”が棲んでいる。この親分は女親分ながら、九州河童の頭目”九千坊”より上位の親分とされ、関東の河童を統括していると言われている。(しかし、現時点では九千坊とねねこが直接対決した資料は発見できず、何をもって最強なのか、誰が言い始めたのか不明である)
「利根川の昔ばなし」高塚馨 崙書房によると”ねねこ親分”の配下には関東の名だたる河童親分が名前を連ねたという。
- ”赤城の忠治河童”
- ”佐倉の繁三河童”
- ”江戸の長兵衛河童”
- ”伊豆の佐太郎河童”
- ”清水の次郎長河童”
- ”潮来の伊太郎河童”
などきら星のごとくスター河童が存在している。まさに河童界最強の布陣ではないか。
だが、ここに奇妙な事が指摘された。友人で妖怪愛好家のからしま氏が
「自分は清水市出身だが次郎長河童など聞いた事がない」
というのだ。
確かに侠客や博徒の親分の名前をもじった河童の名前ばかりであり、随分と安直なネーミングではあるが、得てして妖怪=アナーキストという構図は使用されるものであり、それ以上は深く考えてなかった。
私の疑問が頂点に達したのは、潮来の伊太郎河童についてである。これは橋幸夫の「潮来の伊太郎」というヒット曲で知られる渡世人をモデルにしている。だがこの伊太郎とは架空の人物であり、この曲の為に作られたキャラクターなのだ。つまり、伊太郎河童は、橋幸夫のヒット曲以降に創作された妖怪である可能性が高い。
そこで私は筆者である高塚先生に電話をし、質問してみた。するとこの配下の親分衆の名前は利根町の某氏から聞いたものであり、真偽は不明だというのだ。
多分、利根町の人々の「ねねこ河童」に対する愛情が、多くの配下の親分衆を創り上げたのかもしれない。それはそれで良いと私は思った。地元贔屓の気持ちが地方ごとの妖怪のキャラクター構成に深みを持たせる事に成功しているなら、それはそれで”あり”だと思うのだ。
伝聞ミスや、誇張、捏造によって妖怪は分化、進化していく、同時に妖怪は地元住民の愛情によって”最強””一番の親分”という冠をもらい、深化していく。妖怪はナマモノである。今現在の妖怪を語らねば、妖怪を捕らえる事はできないかもしれない。
ご注意:
上記の記事は、地域情報サイト「まいぷれ」で掲載されていた「千葉妖怪伝説」というコンテンツを転載したものです。記載されている内容は、当時のものですので、現在の情報とは異なる可能性があります。ご了承ください。
まいぷれ編集部
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