千葉妖怪伝説「その十九 船橋港の妖怪パラダイス」
船橋の港に夜行くと、そのあまりの暗さに驚愕してしまう。深い青色の海はまるで人間の深層心理を見るようである。この船橋湾には多くの妖怪伝承が残されている。多くの漁船で賑わった船橋湾は、妖怪の巣窟でもあったのだ。
浦安の世間話(青弓社)を紐解くと、船橋湾の珍しい妖怪について書かれている記述に気がつく。いくつか紹介してみよう。
まずはミノガメという亀妖怪について述べてみたい。船橋湾の深い所に棲み、天候の変わり目に水面に浮かびあがってくるという。その全長が四丈というから驚きである。Mに直すと12mになる。全身に海草が生えており、「蓑」のように見える事から「ミノガメ」という名前がついたとされている。
また船橋湾の海坊主も個性的だ。同書によると、盆の16日に出るとされており、三十六反の帆を立てて「怪しい船」が迫って来るという。三十六反はミノガメの大きさどころではない。Mに直すと396mである。あまりにも大きすぎる。房総半島の方に出るダイダラボッチよりも大きい。だがこんな大きい割には、漁師が櫂でぶっ叩くと消えてしまう。どうやら、図体の割には打たれ弱いようである。
しかし、安心してはいけない。怪しい巨大な船が消えた後は、「海坊主」が襲ってくるのだ。船の近くににゅーと出てくる「海坊主」。これまた漁師が櫂でぶっ叩くと消えてしまう。しかし、直ぐにまた違う方向からにゅーと出てくる。これが延々と続き、最後には朝になってしまうらしい。魚や貝もとれず疲労困憊で帰路に就く漁師はよい迷惑である。
更に同書には、漁師に最も恐れられた海の「うぶめ」とも言える「ねんねろよ」について記載されている。これは海上を子供を抱いて浮游し、漁師に子供をだかせようとする妖怪である。こんな妖怪に、深夜の海で襲われた漁師はさぞ肝を冷やしたことであろう。
それにしても「うぶめ」という妖怪は凄い。環境に応じて進化する妖怪とも言えよう。子供を抱いて陸上に出れば、通常の「うぶめ」だが、雪中に出ると「雪女」となり、海上にでると「ねんねろよ」になる。まさに変幻自在である。
船橋の民話(聚海書林)にも興味深い妖怪伝承がある。
まず「夏見城の大蛇」があげられる。夏見城は今は寺院にその残骸を残すが、いくつかの奇談に満ちている。かつて戦国時代に落城した際、死んだ武士達の遺体を埋めた塚に奇妙な現象が起こった。いくら雪が降っても何故か塚には雪が積もらないのだ。その為、死者の怨念が雪を溶かす「雪とけ塚」と呼ばれたという。またその死者の魂が大蛇となり、光る目が船橋湾から眺める事ができたと伝えられている。この大蛇の光る目により、船橋湾で操業する漁船は迷わず船を運航できたらしい。夏見城の豪族は、地元住民に親しまれていたというが、まさに「夏見城の大蛇」は船橋の漁民の守り神ともいえよう。
他にも同書には、こんな話がある。将門の愛妾であった「桔梗前」が、兄である藤原秀郷に将門の弱点を教えたという罪の意識により、船橋湾に身投げをし、「大鮫」となったという伝説が記載されている。この「大鮫」は、漁船を襲ったというから、地元住民に対しては敵対心を持っていたのかもしれない。
海から来る妖怪、海の妖怪は今もどこかで息を潜めているのであろうか。某国から密入国事件が船橋港である度に、”現代の妖怪”に身震いする自分に気がついてしまうのだ。
ご注意:
上記の記事は、地域情報サイト「まいぷれ」で掲載されていた「千葉妖怪伝説」というコンテンツを転載したものです。記載されている内容は、当時のものですので、現在の情報とは異なる可能性があります。ご了承ください。
まいぷれ編集部
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