千葉妖怪伝説「その二十六 深夜の倉庫の隙間から」

 かつて船橋港にある某倉庫にて、システム関連の仕事をしていた。輸入された製品の在庫データの修正や、新製品の詳細なデータをホストに入れて日々管理する仕事で、私の仕事は必然的に深夜に及んでいた。当然、泊まり込みや深夜出勤も多くなる。

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そんな私が現実に体験した怪異談を紹介しよう。

 データの修正作業は、途中23時ぐらいまではバイト君がいるのだが、それ以降は一人になる。港の倉庫で深夜ひとりきりである。出ない方がおかしい。ある夜の事、私の仕事深夜までかかった。

「今夜はこれまでにして仮眠室で寝るか」

私は仕事を終えて、仮眠室で眠りについた。

当時、その倉庫では深夜労働にそなえ、簡易ベットを供えた部屋があったのだ。ジャージに着替え、ベットに潜り込んだ私の耳に、奇妙な音が聞こえてきた。私はその音を夢うつつの中で聞いていた。

(この音はなんだ、いや違うな…音じゃなくて、音楽だ)

私は浅い眠りのなかで懸命に藻掻いた。困った…金縛りである。そのうち、その音楽が近づいてきた。段々と宿直室に迫ってくる。

(頼むこの部屋に来ないでくれ!)

私の願いも空しく、部屋のドアが開けられた。音楽が一掃大きくなる。

(この音楽は聞いた事がある。そうだ。東南アジアの音楽だ)

私がそう思った瞬間、東南アジアっぽい仮面を被った男達が部屋に入ってくると踊り始めた。まるで私に挨拶するかのごとく。

(妖精?まさかアジアの精?)

私は驚きと恐怖でそのまま意識を失ってしまった。翌日は私は睡眠不足のまま仕事を開始した。そして、アジアから輸入されたコンテナの中身のチェック作業を行った。輸入コンテナは普通、ボルトで封印されており、開けることは不可能である。

「すいません、立ち会いお願いします」

私は部下の要請でコンテナの開封に立ち会い、特殊なハサミで封印ボルトを切断した。やや埃臭い空気が周辺に広がる。

「なんか異臭がするな~」

人一倍、異臭に敏感な私は鼻腔を押さえると思いコンテナの扉を広げた。
「荷物がくさってんじゃないですか」
「おいおい、それはまずいよ。事故じゃないか」

私、苦笑しながら扉を完全に開封した。するとその扉の内側には英文でこう書かれていたのである。
「ハロージャパニーズ」

(…ひょっとしたら昨日のご挨拶ってこの事?俺って妖精も一緒に輸入しちゃったかな?)

私はしばし、コンテナの前で佇んで苦笑するばかりであった。


ご注意:
上記の記事は、地域情報サイト「まいぷれ」で掲載されていた「千葉妖怪伝説」というコンテンツを転載したものです。記載されている内容は、当時のものですので、現在の情報とは異なる可能性があります。ご了承ください。

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